カンムリカイツブリの思い出

2020.12.03

子供の頃、私はカンムリカイツブリに憧れを抱き続けていた。もっとも、その頃の私は見たことのない鳥はすべて憧憬の対象ではあったのだが。
カイツブリ類としては異例の大きさの鳥だ。大型のカモ類と同じくらいの堂々たる体躯に、長い首、独特の飾り羽、そしてルビーのような真っ赤な目…。それらのすべてが優美で気品にあふれ、見る者を魅了する。これが幼い頃に図鑑で見たカンムリカイツブリの印象だ。当時は、日本では青森県の小川原湖と、滋賀県の琵琶湖でのみ繁殖すると言われていた。その希少さが、野鳥少年の“見たい気持ち”を一層増幅させる。月日を経てもその思いは募るばかりだった。

長じて野鳥を撮影するようになった私は、迷わず小川原湖へと向かった。初めて見る実物のカンムリカイツブリは、ちょうど夏羽の時期ということもあって思っていた以上に美しく、私は勝手に“水鳥の女王”と呼ぶことに決めたのだった。
それから20年ほども経っただろうか。私は野鳥撮影を生業とするようになり、写真の世界もフィルムからデジタルへと移り変わった。鳥たちの生息状況にも変化が見られるようになった。時代は変わった。
時代の変化を大きく感じることのひとつがカンムリカイツブリの生息状況である。あれほど貴重だったカンムリカイツブリは分布を広げ、さして珍しい鳥ではなくなっていたのだ。日本各地で越冬する姿が珍しくなくなり、繁殖地も激増した。北海道でも、道南では毎年繁殖するようになり、今では札幌近郊の沼でも繁殖することがある。さらに、越冬個体はどこででも見られる様相となって、例えば石狩川の河口や胆振・日高地方の漁港などにも時折姿を現してくれる。この20年ほどの間に減少した鳥も少なくない中、カンムリカイツブリは“勝ち組”に違いなかった。
そして、今、釧路の沖合は毎年100羽以上のカンムリカイツブリが集まる一大越冬地となっている。沖合と言うよりも沿岸という表現の方が正しい。釧路港の周辺では、うまくすれば海岸近くまで寄って来てくれ、双眼鏡はもちろん、肉眼でもあの美しいルビーのような瞳を確認することができる。
釧路の海にカンムリカイツブリがやってくるようになったのはいつからなのだろう。私が知ったのは5〜6年前。ここ10年ほどのことなのだろうか。いずれにせよ、近年の状況には違いないだろう。今年も、9月頃からその姿は確認しており、今頃はきっと100羽単位のカンムリカイツブリが翼を休めているに違いない。

 

 

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