厚岸漁港のコオリガモ

2021.02.05

冬は漁港巡りが楽しい。潜水採餌型のカモ類、いわゆる”海ガモ類”が、港では間近に見られるからだ。

特に北海道は海ガモ類の種類が多く、中には希少な種類もいたりする。車の中から窓をそっと開けて観察・撮影するスタイルでのバードウォッチングだから寒さも気にならない。カモ類の他にも何種類ものカモメ類やカイツブリ類、アビ類も見られて飽きることがない。

冬の漁港の鳥の中でも本州以南の人たちに人気が高いのはコオリガモだろう。白黒の美しい姿は、その名の通り氷片が漂うような厳寒の海が似合い、いるだけで冬らしい雰囲気を醸し出す。ピンと伸びた細く長い尾も優美だ。北海道では珍しくもなく、特に釧路根室地方では普通に漁港に浮かんでいるのだが、本州以南ではまず見られない。その意味で北海道らしい鳥のひとつである。

 

 

私も、30数年前、東京から北海道へ移住してきた頃にはコオリガモを是非撮りたいと思い道東の漁港をよく見て回ったものだ。
ある時、2月だったと思うが、ふと厚岸漁港に立ち寄ってみた。すると、埠頭に囲まれたプールのような、長方形の狭い港の中にコオリガモがひしめいているではないか。雄も雌もいる。合わせて200羽ほどもいただろうか。開水面が狭いだけに、ぎっしり、という言葉がぴったりなほどの数だ。

そして、あたり一面に響く「アッアオーナー」「アオーアー」という声。コオリガモ特有の面白い声があちこちからまるで輪唱のように聞こえてくる。雄が雌に対してアピールする声なのだが、我々人間の耳にはどうしても「アオーナー」と聞こえる。「青菜」の俗称で呼ばれることもあるという話にも合点がいった。

それまでに既に2,3回はコオリガモを見たことはあったが、輪唱を聞いたのは初めてだった。私は、その面白さと存在感に圧倒され、いつまでもシャッターを切り続けた。

思えば、その日は、低気圧が近づいて来ていた。風が強く、波が高かった。そのため、コオリガモたちは沖合から波の穏やかな港内に大挙して避難してきたものと思われた。私にとっては、低気圧のお陰で北海道の冬の海の面白さを初めて実感を伴って知ることができた1日となった。

今でも、私はあの時の感激が忘れられない。冬に厚岸を通ると必ず漁港を覗くのはそのためである。

 

 

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