ツルシギの魅力

2022.08.01

8月は、シギたちにとっては秋たけなわである。北極圏などで繁殖を終え、7月後半には熱帯や南半球の越冬地へ向かう旅つまり”秋の渡り”を始めているからだ。7月下旬には日本に姿を現す個体も多く、8月は渡りの季節の本番を迎えている。国内最北の地である北海道は特にその傾向が強い。
それにしても日本はこれから暑さの盛りに向かおうというこの時期に、もう冬への備えを始めているシギたちには感傷じみたある種の感慨を覚えざるを得ない。自然の摂理を想い、北極圏の短い夏が目に見えるような気がする。
そんなシギたちの中で、特にツルシギの存在は魅力的だ。赤い嘴と足がまだら模様の体に彩りを添え、美しい。スラッとした体形も気品がある。ツルに似たシギ、という意味で名付けられたであろう和名も、ツル類とはだいぶ大きさが違うとはいえ、何となく気持ちはわかる。
さらに、国内では道東だけで繁殖するアカアシシギと近縁であり、雰囲気が似ている点も鳥好きの心をくすぐる。
私は、地元である道央圏の湿地でツルシギに会うことを毎年秋のささやかな楽しみにしている。道央には毎秋10羽以上の群れでツルシギが長逗留する湿地があるのだ。
ただ、一方、道東では長くツルシギを見たことはなかったので、少し寂しく、残念に思っていた。だが、数年前の秋、釧路市郊外の湿地で1羽のツルシギを見つけた。うれしかった。
ツルシギは、タカブシギと行動を共にしているように見えたが、薮を漕ぎ、草をかき分けて湿地の沼にたどり着いた私に対してタカブシギはすぐに少し遠くへ飛んだが、ツルシギは飛びはせず、小走りに走って岸辺の草薮に姿を隠した。持久戦を覚悟し、私はその場に座り込んで彼らが出て来てくれるのをじっと待つことにした。
意外にも、ツルシギはわずか10分足らずでゆっくりと沼に出てきた。私の方を警戒しつつも浅い水辺を歩いて何かを漁り始めた。私は彼がいい場所に移動してくれるのを待つ。シャッター音に慣らす意味もあり1度、2度とシャッターを切る。大丈夫だ。ツルシギは相変わらず食べ物を漁っている。その様子を見たのか、タカブシギも再びやって来て、同じように獲物漁りを始める。部外者である私の存在は、ひとまず許してくれたようだ。かくして、私はツルシギとタカブシギと、そしていつの間にか近くに来ていたトウネンやハマシギの群れとともに穏やかな秋の一日を過ごすことができた。
ツルシギはまた、夏羽では真っ黒な姿になることも魅力の一つだ。見られる時期は4月から5月上旬頃。その頃、この湿地を訪れ、今度は夏羽になったツルシギを撮ってみたいと思っている。

 

 

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