憧れのビロードキンクロ

2022.02.01

北海道の冬の楽しみの一つが、何種類もの海ガモたちとの出会いだ。海ガモというのは”潜水採餌型”のカモ類のことで、潜水しておもに小魚や貝類、甲殻類を捕食する。内陸の湖沼に出現するものもあるが、海ガモというくらいだから海にいることが多い。例えばコオリガモやクロガモ、シノリガモなど。これら海ガモが北海道の冬の海岸では数多く見られ、流氷が流れ着いたり蓮葉氷が漂う海面を泳ぐ姿は厳寒期の北の海ならではの光景となる。
中でもビロードキンクロは独特な顔の模様でひときわ目立つ。全身が黒く、基部が変形した赤い嘴と、目の周りの勾玉のような形の模様が何とも言えない異国情緒を感じさせ、私は子供の頃に図鑑で見たその姿に驚いたものだ。
「えー!何これー」
「変なのー」
美しいとか可愛いという形容は当たらない。しかし、インパクト充分なその姿には、どこか心惹かれるものがあり、強く心に残った。
やがて大人になり北海道に移り住んだ時、見たい撮りたいと思う鳥はたくさんあったが、ビロードキンクロもそのひとつとして憧れの存在になった。
道東の海岸では比較的観察しやすいと聞いていたが、実際に探してみるとそう簡単ではない。簡単には会えないことがわかると、益々憧れの気持ちが強くなるものだ。絶対に撮りたいと思うようになり、ある年の冬、ビロードキンクロ(略してビロキン)撮影作戦を計画した。釧路から根室にかけての海岸線を丹念に回り、可能な限り漁港を訪ねてみようという作戦だ。
かくして2月のある日、まる二日間をかけてこの作戦を実行することにした。根室の花咲港や歯舞漁港では遠くにいるビロキンを見つけたが、いずれも雌で、あの独特な模様はない。やはり雄のビロキンをどうしても撮りたい。
その一心で根室半島をぐるりと一周し、出会えないまま1日目の最後にたどり着いたのが根室港。海鳥を撮るには小さな漁港の方が可能性が高いから、大きな根室港にはいないだろうと半ば諦めの気持ちになっていた。それでも念のためと思って双眼鏡で港内の隅々にまで目を凝らす。すると…。いた!雄のビロキンがいたのである‼
夕闇迫る根室港での、私とビロキンとの初の出会いの瞬間であった。

 

 

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