極寒の地で越冬するハマシギ

2021.12.01

もう30年以上前の冬のことだ。私は根室の春国岱(しゅんくにたい)をさまよっていた。目的は特になく、どんな鳥でもいいからまだ見ぬ北海道の冬らしい鳥に会いたいという思いで厳寒期の春国岱を訪れたのだった。本格的に冬の道東を旅したのはおそらく初めてだったと思う。
成果は、ヤマゲラ、アトリ、タンチョウ、マヒワといった程度で、やや期待外れ。ミヤコドリが毎年やってくると聞いて少し期待していたのだが、見られなかった。
そんな中、意外だったのはハマシギの越冬群である。ハマシギは日本への渡来数が多く、基本は旅鳥だが、越冬個体も珍しくはない。千葉県あたりの海岸で越冬している姿を私も見たことがあった。
しかし、ここは真冬の根室である。一面氷と雪に閉ざされた極寒の大地である。その時は夕刻でもあり、実際、気温は氷点下10度、いや15度をを下回っていたと思う。干潟も砂浜も地中まで凍っているはずだ。
ハマシギはこんな場所で何をしているのか。10数羽いて、地面に嘴を挿し込んで何やら採餌している雰囲気だったが、餌動物がいるようには思えない。皆、白っぽく美しい冬羽の姿をしている。
私は、当時はまだ知識が乏しくこの時期このシチュエーションでハマシギに出会ったことが不思議でならなかった。しかし、詳細な図鑑で調べてみると、北海道でも越冬個体群がいることがわかった。
春国岱だけでなく、野付半島などでも常連のようだ。野付湾では一定の数が毎年冬を越しているらしい。
ただ、それでもまだ不思議なのは、根室や野付のすぐお隣の千島列島はハマシギの繁殖地になっていることだ。まさか、根室のハマシギは千島列島から渡ってきたわけじゃないよね?その程度の渡りだったらまるで留鳥じゃないか。
ハマシギは、渡りルートや繁殖生態は不明なことがまだ多いと聞く。普通種でさえも私たちが鳥について知っていることはほんのわずかなのだと思い知った。
それにしても、あの時、春国岱のハマシギたちは何を食べていたのだろうか…。

 

 

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