タカブシギに騙された話

2021.09.03

シギチのシーズン真っただ中の9月初旬。もう何年も前だが、私は道東のとある海岸で見慣れぬシギを見つけた。

一見ダイゼンかなと思うような太めの体形で、首はほとんどないように見えるほど短く、全体に丸いイメージだ。しかし体の色や模様からダイゼンでないことは明らかだった。これは、もしかしたら初めて見る鳥かもしれないと、期待感に心躍らせながら様子を見守る。

その鳥は、その時は休憩中だったらしく、泥質の湿地の端でじっとしている。やがて採餌でも始めて動いてくれれば種を特定できるヒントが見つかるかもしれないと思い、しばらく待つことにした。

やがて、案の定、その鳥は採餌を始め、歩き回ったり嘴を泥に差し入れたりし始めた。驚いたことに、周囲に仲間が数羽いたようで、何羽もが一緒になって干潟を動きまわっている。シギ類は休憩中はじつに上手に周囲の環境に身を隠すが、そのせいで私は彼らが動き出すまで1羽しか見つけられなかったのだ。

さらに、もっと驚いたことは、この鳥の姿が全く変わってしまったことだった。体はスマートでむしろほっそりしている。首も、長くはないが、ちゃんと普通にあるではないか。背や翼は茶褐色で無数の細かい白斑がちりばめられている。その様子を見た時、一瞬で気づいた。なんと、それはタカブシギなのであった。もしかしたらライファーかと一瞬でも色めき立ったこの鳥の正体は、あの見慣れたタカブシギだったのだ。休憩時には、体を縮め、羽毛を逆立てるようにして太く見える状態だったというわけだ。

タカブシギは、シギ類としては小型の部類だが足は長めで少し大きめに見える。北海道から沖縄まで全国的に普通に渡来し、決して少なくない。私もそれまでに何度も見てきたし何度も撮影してきた。

鳥は、羽毛を引き締めるか立てるかで、見た目の印象が異なる。20年以上鳥を見てきて、そんなことは百も承知だった。それにもかかわらず、タカブシギがこれほどまでに丸くなることをしらず、また想像もできなかったわけだ。何か、騙されたような、なんとも言えない拍子抜けした気分になってしまったが、タカブシギに罪はない。自分の経験不足・勉強不足以外の何物でもない。

そんな、期待外れの無力感を抱えながらじっと座り込んで撮影を続けていると、件のタカブシギたちは思いのほか近くまで寄って来てくれた。「まあ、落胆しなさんな」とでも言っているようなつぶらな瞳に慰められたひとときであった。

 

 

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