チゴハヤブサの思い出

2021.08.04

8月初旬。多くの鳥たちは繁殖を終え、中には南下の旅を始めているものもいるこの時期に、小さい雛を抱えて子育ての真っ最中という鳥がいる。チゴハヤブサだ。今、チゴハヤブサは、巣にいる雛に親鳥がせっせと獲物を運び続けている時期である。例年、チゴハヤブサの巣立ちは8月20日前後になる。

チゴハヤブサの繁殖がこれほど遅いのはカラスの古巣を利用するからだ。猛禽とはいえ、ほとんどの場合、カラスを追い出したりせず、カラスの雛が巣立つのを待ってから、ようやく産卵にこぎつける。その時期は6月中旬以降。雛が巣立つのがお盆過ぎになるわけだ。

チゴハヤブサは、ハトほどの大きさの小型のハヤブサ類で、国内ではおもに東北地方以北で繁殖する。北海道では札幌や帯広など都市近郊の住宅街付近でも子育ての様子が見られる”都会派”の猛禽という一面を持つ。

私が北海道へ移住してきて何年か経った90年代前半。自宅から徒歩5分の場所でチゴハヤブサが繁殖しているのを見つけた時は本当に驚いた。すぐそばに牧草地や疎林があるとは言え、その場所は振興住宅地であり、マンションも次々に建っている。こんな場所で猛禽が子育てするなんて…と、北海道の自然の豊かさを身を以て知った思いであった。

その年から数年間、毎年その場所は私だけが知るチゴハヤブサ繁殖地として、たくさんのフイルムにその姿を収めることができた。そこでの撮影・観察記録は学術誌や野鳥関連の雑誌に発表し、また写真は某都市銀行の広告やカレンダーに採用され、私の野鳥カメラマンとしての駆け出しの時代を支えてくれた。今でも、初めて会った人から「あのチゴハヤブサの大橋さんですか」と言われることがある。チゴハヤブサは私にとって恩人のような鳥である。

今は、その場所から牧草地も林も姿を消してしまった。高層マンションが建ち巨大スーパーで賑わう街になり、チゴハヤブサの影も形もない場所へと変貌してしまった。

 

 

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